多細胞で構成される生体の各細胞は3次元立体でありますが、上皮組織は2次元シートでできた袋の変形と見なすことができます。そこで、2次元パターンによるシミュレーションを行い、正常組織に発生する癌細胞がどのように増殖するかを動的なシミュレーションモデルを作製して示しましょう。用いているソフトウエアはMathematica ver 5.2とver 7.0.1です。


 正常組織は組織や臓器に特異的な整然とした細胞配列を示します。一方、癌組織を構成する癌細胞は、大小不同の多角形パターンが見えます。この多角形パターンは何か全体的にコントロールするシステムがあるのではなく、構成要素である細胞のランダムな性質によって決まっているように見えます。
 正常組織に発生する癌細胞の増殖を示すのに、ここではボロノイ図を使って近似的に記述することを試みました。


 がん細胞の多角形パターンは核を細胞の代表する点(核)の集まりとして考え、癌細胞のシートが正常組織の中で増殖する様子をシミュレーションしました。がん細胞の形態をボロノイ領域で表すと癌組織のランダムな形態はボロノイ図で非常に良く表せることがわかりました。


 ボロノイ図は計算幾何学(Computational geometry)の研究分野の一つです。ボロノイ図(Voronoi diagram)とは、ある距離空間上の任意の位置に配置された複数個の点(母点)に対して、同一距離空間上の他の点がどの母点に近いかによって領域分けされた図のことです。応用分野として、地理情報システム、ロボティクス、コンピューターグラフィックスなど多岐にわたります。この研究では、癌組織とその増殖パターンにボロノイ図を応用し、ランダムに放射線粒子がヒットする放射線治療をシミュレーションしました。例えば正常組織の模擬的なボロノイ図(図1A 腺組織、1B 扁平上皮組織)を示します。

 

図1. ボロノイ図を用いた組織シミュレーション

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